
メス猫の避妊手術を考えるうえで、まず押さえておきたいのが「いつ行うか」という問題です。メス猫の思春期(性成熟)は生後6〜7か月頃とされており、生後6か月になると多くの猫が初めての発情期を迎えます。そのため、避妊手術を受ける最適な時期は生後6か月未満、遅くとも1歳未満とされており、あまり早すぎても骨などの発育に影響があることから、生後6か月前後が推奨されています。
手術を受けさせる時期の考え方
なぜこの時期が重視されるかというと、乳腺腫瘍の予防効果と深く関係しているからです。猫の乳腺癌(乳腺腫瘍)の99%は未避妊の猫に発生すると言われており、生後6か月未満に手術を受けた猫では91%、生後7〜12か月で受けた猫では86%の予防効果があるとされています。一方、1歳(生後13か月)を過ぎてからの手術ではこの予防効果が大きく低下してしまうため、タイミングを逃さないことが重要です。
日本では生後4〜8か月くらいで手術が行われることが多いとされています。月齢が若いうちに行うと傷跡が小さく済んだり痛みを忘れやすいというメリットがある一方、あまりに早い時期は心肺機能や腎臓の機能がまだ未成熟であるため麻酔のリスクが高まることもあり、このバランスを踏まえた時期設定です。
なお、発情中や病気中には手術を避けることが望ましいとされています。発情時期は子宮の血流が増えたり免疫が低下していたりするためリスクが高まるので、体調が落ち着いてから改めて手術を検討してください。
手術前の準備と絶食の重要性
手術当日に向けた準備も軽視できません。手術前には血液検査などが行われ、麻酔をかけても問題がないかどうかの健康状態の確認が行われます。また、動物病院によって多少異なりますが、手術前12〜18時間程度の絶食が必要となります。
絶食が必要な理由は麻酔との関係にあります。胃の中に食餌が入ったまま麻酔をかけると、麻酔から覚める際に誤嚥して命に関わることがあります。万が一誤って食事を与えてしまった場合は、必ず獣医師に報告してください。水についても、手術の3時間前から飲ませないよう指示されることが多いため、動物病院からの指示を必ず確認してください。
手術の内容について
避妊手術は全身麻酔をかけてお腹を数センチほど切開する開腹手術で行われます。動物病院によっては腹腔鏡手術を行うこともあり、その場合は傷跡がより小さく済みます。手術時間はおよそ1時間で、当日に帰宅できるケースもありますが、猫の状態によっては1〜2泊の入院となることもあります。
手術の方法には「卵巣のみの摘出」と「卵巣と子宮の同時摘出」の2種類があります。卵巣のみを摘出する方法は傷口が小さく手術時間も短い一方、子宮は残るため子宮の病気になる可能性が残ります。卵巣と子宮を同時に摘出する方法は傷口が大きくなりますが、卵巣・子宮に関わる病気を防ぐことができます。どちらの方法を選択するかは動物病院の方針によって異なります。
帰宅直後のケア
手術を終えて帰宅してからの対応が、回復の速さを大きく左右します。まずは静かな場所でゆっくり休ませることが大切です。傷口をなめないようにするため、エリザベスカラーや術後服は必ず身につけさせてください。手術当日の食事は控えるよう指示があることもあるため、獣医師の指示に従いましょう。食欲がなかったり、嘔吐や下痢の症状があった場合はすぐに受診してください。
エリザベスカラーを強く嫌がる猫もいますが、その場合はソフトタイプのカラーや術後服など負担を軽減できるものを選ぶとよいでしょう。どの方法が適しているかは猫の性格や手術内容によって異なるため、必ず獣医師の指示に従ってください。
傷口の観察と安静期間
術後ケアで最も注意すべきポイントは、傷の状態と食欲、元気、排泄の状態、嘔吐などです。通常、異常がある場合は術後4日程度で何らかの変化が現れることが多く、傷の抜糸は術後10日から2週間で行われるため、その間は注意して観察しましょう。
傷口が腫れてきたり、膿んできたり、出血が見られる場合にはすぐに手術を行った動物病院に相談してください。また、猫が傷口をなめたり噛んだりすることがないようエリザベスカラーや術後服を使用し、特に飼い主が就寝中や外出中など目が届かない時間は必ず装着しておきましょう。
メス猫は7〜10日程度の安静が必要とされており、特にジャンプや激しい動きには注意が必要です。高いところから落下してケガをする危険があるため、キャットタワーなど落ちる危険性のあるものはあらかじめ撤去しておくとよいでしょう。
多頭飼いをしている場合も気をつける点があります。術後は猫同士がストレスや消毒の匂いによってお互いのことがわからなくなり、攻撃してしまうことがあります。どんなに仲がよい猫でも、手術後はしばらく別々に過ごさせることが安全です。
術後の食事管理と体重ケア
避妊手術を終えたあとに多くの飼い主が直面するのが体重管理の問題です。避妊手術後は愛猫の実際のエネルギー消費量が30%低下する一方で、食欲は20〜25%増加します。これにより食べすぎになりやすく、余分なエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなります。術後の食事量は約10〜30%減らして適切な体重を維持するようにしてください。
また、手術のタイミングで子猫用フードを与えている場合は、フードの見直しを行うようにしましょう。子猫用フードは成猫用フードと比べて発育に必要な栄養素が多く、カロリーが高めに設定されているためです。
体重管理に取り組む際は、避妊・去勢後用の低カロリー・高タンパク質フードへの切り替えを検討するとよいでしょう。体重のコントロールがうまくいかない場合は、獣医師に相談してダイエット計画を立ててもらうことも選択肢のひとつです。
術後の経過で注意すべきサイン
回復の過程でいくつかの変化が現れることがありますが、何が正常で何が異常かを把握しておくことは大切です。術後2〜3日は食欲が低下することがありますが、その後徐々に回復していくのが正常な経過です。
一方で、出血がある、食欲や元気がない状態が続く、便がゆるい、排便・排尿に異常がある、精神的に不安定であるなど、普段と違うことがひとつでもあれば「様子を見る」という判断はせずにすぐに動物病院へ連絡することが大切です。
術後の変化として行動面では、発情期特有のイライラや落ち着きのなさがなくなり、年間を通して安定した精神状態を保てるようになります。発情による食欲不振や物陰に隠れる行動が減少し、以前より甘えん坊になるケースもあります。猫本来の性格にもよりますが、手術前と比べておだやかになったと感じる飼い主さんも少なくありません。